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「しびれ」というのはある意味、知覚神経の麻痺です。手足の麻痺に対してよく聞く言葉に片麻痺とか、半身麻痺と言うものがあります。「片麻痺」とは右半身麻痺または左半身麻痺のことで、同側の上下肢に麻痺が見られます。主に脳血管障害でおこります。他に「対麻痺」、「四肢麻痺」というものもあります。「対麻痺」とは典型的には下半身麻痺のことで両足が麻痺する状態です。「四肢麻痺」とは両手・両足が麻痺する状態です。これらは脊髄損傷など、脊髄の障害でよく見られます。これらに対して片側の手だけ、または足だけに神経麻痺が見られる場合、単麻痺と呼ばれます。単麻痺の場合、通常は原因部位は末梢神経由来です。ヘルニアなどによって脊髄から出た直後の神経根で障害が起こる場合もあります。各神経にはそれぞれ支配領域というものが存在します。神経麻痺の診断には、障害部位を詳細に観察し(どの範囲がしびれているか、どの筋肉が弱っているか、どの腱反射が変化しているか)、この支配領域と症状の対比を行うことによってある程度原因とその障害部位が推定できます。複数の原因がある場合や多発性病変の場合は診断が困難になることがあります。末梢神経が麻痺する原因としては、刃物で切る等、外傷の場合を除いて、ほとんどが何らかの原因で神経が圧迫されて起こるものです。この圧迫の原因と障害部位によって治療方針が決定されます。
高位麻痺は外傷による神経障害や腫瘍などで見られます。低位麻痺に伴う知覚障害の他に、運動神経である前骨間神経の麻痺も伴います。前骨間神経麻痺による運動麻痺は正中神経の主な支配である母指屈筋と示指(人差し指)、中指の屈筋が麻痺するためにグーをしようとしても母指、示指、中指の3本が屈曲できなくなる、特徴的な形を示します(猿手、祈祷師の手、等と呼ばれます)。これが見られると高位麻痺となります。 低位麻痺では手指の屈筋への枝分かれが終わってからの障害であるため、猿手変形は来しません。ただ、母指対立筋という、小指の方へ親指を持っていく動作をする筋肉は麻痺します。低位麻痺の原因のほとんどは手根管症候群によるものです。経過が長いと対立筋がやせてしまい(母指球の萎縮)ます。 知覚障害としては、典型的には母指・示指・中指の先端と環指(薬指)の親指側半分に見られます。 肘の骨折(特に上腕骨顆上骨折)の合併症として高位麻痺がみられることがあります。 正中神経は手関節の部分では、横手根靭帯という靭帯と手根骨で出来たトンネルの中を通ります。この靭帯が肥厚して通り道が狭くなり、神経が圧迫されるようになった状態が手根管症候群です。手術的に靭帯を切り開いて通り道を広げることがあります。最近ではこの手術を内視鏡下に行うこともあります。母指球の萎縮が強いと手の重要な機能の一つである対立運動が出来にくくなるため、他の指の腱を移行して対立運動の力源を作る(対立形成術)事があります。
知覚神経は通常、小指と薬指の小指側半分を支配しています。運動神経は手の内在筋への支配が多く、麻痺すると指の完全伸展がしにくくなります(鷲手変形、craw handと言います)。 尺骨神経は肘の内側にある骨の出っ張り(上腕骨内上顆)のすぐ後ろを回り込むようにして走行しています。そのため、骨にこすりつけられたり、周囲の靭帯によって締め付けられたりしやすくなります。これを肘部管症候群と言います。また、病的なものではありませんが、人によっては肘の曲げ伸ばしで神経が内上顆の出っ張りを乗り越える、尺骨神経の脱臼が見られることもあります。 肘部管症候群による尺骨神経麻痺が長期間に及ぶと筋萎縮が生じます。主に背側骨間筋と呼ばれる部分が萎縮し、見た目には親指と人差し指の間がやせ細ります。このような状態になると回復しにくいので手術が選択されることがあります。手術には神経の剥離術、靭帯の切離による肘部管の解放術、神経の前方移行(皮下、筋層内、筋層下)などがあります。
肘の骨折などに合併する時には通常、手関節の背屈障害は伴わず、手背部のしびれと指の伸展障害が見られます。指の伸展障害については尺骨神経の支配である骨間筋の働きで動かせるように見えることがあります(トリックモーション)ので注意が必要です。これを識別するには指に付け根の関節(MP関節)が伸展できるかどうかを確認しなければなりません。 肘から先の部分では運動神経(後骨間神経)と知覚神経(橈骨神経背側皮枝)に別れますので、知覚障害と運動障害がそれぞれ単独で現れることがあります。
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