腱板損傷(2)

腱板損傷の治療

治療方針

腱板に穴が空いてしまうと、この穴は自然にふさがったり、小さくなる事はなく、半数以上の確率で、数年の経過で断裂部の広がりが生じ、痛みが出てくると言われています。従って、修復を目指すならば手術しか方法はありません。しかしながら、腱板断裂には無症状のものが多くある事も事実です。60歳以上の無症状の人でも約4割の人が腱板断裂をもっていると言われます。現時点ではどういう断裂が無症状で、どういう断裂が痛みや機能障害を引き起こすのかについての一定の見解はありません。従って、断裂があっても機能障害を来さなければ基本的には治療対称とはなりません。しかしながら、上述のように、数年の経過で悪化することがあることも明らかになっているため、50歳以下の場合には症状が強くなくとも手術的に修復しておく事が望ましいと言う意見もあります。逆に高齢者の場合、症状がある程度あっても、機能障害が強くなければ手術治療対称とならず、保存治療の対象となる事も多くあります。これは高齢者の場合、断裂してからの経過が長い事が多く、筋肉そのものが萎縮し、たとえ腱を修復しても機能障害が残存する可能性が高い事が多いからです。このように、手術をするのかどうかについては年齢、筋萎縮の状態、機能障害の程度、などを考慮して決定されます。
特殊な病態として、腱板断裂を放置した場合、4%程度の割合で腱板断裂関節症(cuff tear arthropathy)といって関節破壊が起こる事があるとされます。これを生じると肩の痛みと極度の可動域制限を生じます。

保存治療(リハビリ)

保存治療の目的は痛みを低減する事、可動域の維持、適度な肩関節の機能維持、にあります。腱板断裂は無症状の人にも多く認められることが知られています。屍体解剖の調査では30から50%に腱板断裂が認められると言われていますし、無症状の肩をMRIで調べた研究では、60歳以上の約50%に腱板断裂が存在していたとされています。したがって、腱板断裂があっても痛みがあると言うことにイコールにはなりません。保存療法の研究をした論文では、保存的治療は50%強の人たちに対して有効性があるとされます。しかし、下の方でも書いておりますが、長期的には悪化する可能性がある事は知っておかねばなりません。
断裂してしまった部分は元には戻りませんので、他の筋肉でどれほど肩関節の機能を代償出来るかが成績を左右します。また、痛みの元にもなる拘縮を作らない事が重要です。肩の協調運動の訓練と適度な薬物療法が中心です。痛みのある時期に無理に動かすと炎症が強まり、症状の悪化につながります。また、痛みを伴う無理な運動は「肩手症候群」と言う難治性の疾患の原因にもなります。肩手症候群になると指の拘縮が起こり、手全体の機能が低下してしまいます。
腱板断裂を放置した場合、どうなるかと言うことを検討した論文があります。これによると、45例の無症状腱板断裂を追跡したところ、平均2.8年後に症状が出現したと言うことです。また、多くの例では超音波検査での断裂部の拡大が認められたと言うことです。ですから、一旦保存療法で症状が改善したとしても、数年後にまた症状が再発し、その時には悪化しているという可能性がある、と言うことを念頭に置いておく必要があります。

手術治療

手術治療の目的は断裂腱の(可及的)解剖学的修復とそれによる機能回復、除痛です。断裂した腱は自然にくっつく事はありませんので、手術的に縫合する事になります。大抵は骨と腱の境目から切れてしまうので骨と腱を縫いつける操作が必要になります。以前は骨に溝を掘ってそこに腱を縫いつけていたのですが、最近ではアンカーと言う道具が出来、骨に溝を掘る操作が省けるようになってきています。また、近年では関節鏡下にこれらの操作を部分的または全面的に行う手技が普及しつつあります。術後の固定方法は施設によってまちまちです。腱が骨にくっつくまでの期間、力を入れる動作は禁物ですので、通常は3ヵ月程度は力仕事は出来ません。断裂の範囲が大きく、引っ張ってきても覆えないようなときには自分の太ももの筋膜や人工腱を使って補強する事があります。修復不能で痛みが強い場合には関節内の掃除だけを行う事もあります。

手術治療の成績

平均的に8割程度は機能的にも回復するとされていますが、断裂の程度や状態によって予後は変わります。一般的には年齢、断裂の大きさ、断裂していた期間(筋萎縮の程度)が予後を左右する因子とされます。50歳位までではっきりとした断裂のエピソードがあり、断裂の程度も小さいものは機能的にも予後はいいです。しかし、断裂の存在期間が長ければ長いほど、腱の質が低下し、再断裂を来しやすくなります。断裂範囲が大きくても同様に再断裂の頻度が上がります。また、筋萎縮が強いと除痛は出来ても機能的回復は難しいとされています。


参考文献
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