関連痛

痛みと脳の認識

 関連通という言葉、お聞きにあったことはあるでしょうか?
 まず、痛みの発生機序について説明します。痛み刺激(侵害刺激といいます)が加わると、そこの知覚神経(侵害受容器)に刺激が加わり、神経細胞が電気刺激を出し、それが神経繊維を伝わて脊髄から脳に伝達され(脳に向かう信号の流れを求心性伝達といいます)、脳がその信号を認識します。このとき、脳の信号認識部位と信号を発生した神経細胞とは本来1対1対応です。そのため、信号が運ばれてきた神経がどこから来ている神経かを識別することができるので、刺激の加わった場所に痛みが起きていると認識することができるのです。その上で、逃避動作が必要な場合(熱いものにさわったときに手を引っ込める動作など)には、脳が「手を引っ込めろ」という指令を出し、それが運動神経を伝わって筋肉に到達する(脳から末梢へ向かう信号の流れを遠心性伝達といいます)と筋肉が収縮し、手を引っ込める動作が成立するのです。

脳が末梢のどの神経で受け取った信号であるかを認識するとき、部位によってその正確度に違いがあります。指先などは非常に細かい領域で識別することが出来ます(通常、ミリ単位の刺激部位の違いを認識できます)が、おなかや太もも、上腕部など、普段細かい刺激の認識の区別を必要としない部位では、これほど細かい識別は通常は出来ません。

関連痛1関連痛2
左:通常□の部分の刺激を脳は「□の部分からの信号」と認識できる右:普段痛み刺激の起こらない○部のからの刺激は、脳が○部を正確に認識していないことがある。この場合、神経分布が近く、普段刺激を受けやすい□の部分からの刺激と誤認する事がある。これが関連痛。
これが内臓などの深い部分に存在する組織で、通常刺激が起こらない部位に刺激が起きたとき、脳は部位の特定が出来ないことが多いのです。この場合、漠然とした痛みとして感じることもありますが、近くに分布している神経の痛みと取り違えることがあるのです。すなわち、本来痛み刺激が起こっている部位とは違う部分に痛みを感じてしまうのです。これが関連痛(内臓由来の場合、特に内臓痛)と呼ばれるものです。神経分布にはある程度一定性がありますので、痛みの出現部位にもある程度の傾向があります。これを把握しておくことで、痛みの取り違えに惑わされることなく、本当の障害部位が推定できることがあります。

内臓痛の有名なものに、心臓の痛みがあります。狭心症や心筋梗塞などの心臓の痛みは左前胸部の痛みとして認識される事が多いのですが、場合によっては肩の痛みや首の痛みとして現れることがあります。心臓由来の痛みの特徴としては、典型的には「強い圧迫感、灼熱感、絞扼感」「顔面蒼白や吐き気などの迷走神経反応が出る」「体動や呼吸による症状の変化がない」などです。また、大動脈瘤や膵炎など、後方にある臓器疾患では背部痛や腰痛といった形で現れることもあります。気胸などの肺疾患では呼吸により変化する背部痛がみられることがあります。通常の頚椎由来の痛みや五十肩、外傷などは「体動により症状が変化する(首を上に向けると痛いとか、腕を上げると痛いとか)」「範囲が比較的小さい(数センチ程度の大きさ)」「局所に限局した圧痛(押さえると痛い)」などの特徴があることが多く、内臓疾患の症状と診察所見で区別が付くことも多いものですが、鑑別として注意が必要です。

整形外科領域では、椎間板の痛みが関連痛として現れることがよくあります。頚椎の椎間板障害では通常、5番目/6番目間、6番目/7番目間あたりの障害が多いのですが、この場合、頚部痛としてよりも、肩甲骨の内側に痛みが生じることがよくあります。また、腰椎の場合、4番目/5番目間、5番目/仙骨間の障害が多いのですが、この場合は腰痛と言うよりもおしりの少し上外側から太ももの付け根に痛みが出ることがよくみられます。坐骨神経痛も同様の部位に痛みが出現しますが、もう少し下まで痛みが広がることが多いようです。下位胸椎の圧迫骨折でも同様に、背中が痛くなるのではなく、側腹部やおしりあたりに痛みが出ている場合もあります。

ほかに、五十肩の場合、肩関節に痛みが起きると言うよりは肩よりも少し下、腕の外側に痛みを感じることがほとんどです。また、股関節の痛みも太ももや膝に痛みを感じることがあります。これは特に子供で強い傾向にあるようです。

このように、痛みを感じる部位と実際に障害されている部位とは違うことがあります。特に深部組織になるほど、この傾向は強くなりますので、注意が必要です。

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