肩関節

もっとも不安定な関節

 肩関節は上腕骨と肩甲骨からなっています。これを肩甲上腕関節と言います。肩関節は右写真のように、上腕骨側の丸い骨頭と呼ばれる部分と、臼蓋と呼ばれる肩甲骨側の受け皿から成り立っています。ちょうど、ゴルフでティーの上にゴルフボールをのせたような状態です。この状態では非常に不安定なのがお解りと思います。これを安定させているのが周辺の筋肉です。肩関節は”筋肉の海に浮かぶ関節”とも呼ばれ、周りの筋肉によって支えられています。これらのバランスが崩れるとたちまち機能が低下してしまいます。筋肉はレントゲンにも写らないので、レントゲンで異常が出る事は少ないです。特にスポーツ障害などでは詳細な検査や専門的な診察が必要になる事があります。

 骨頭の上には腱板(rotator cuff)という板状の腱が骨頭を覆っています。その上には肩峰という肩甲骨の出っ張りがあります。骨頭と肩峰の間を肩峰下滑液包といって、第2肩関節とも呼ばれており、肩の挙上動作において重要な働きを持っています。腱板は腕を上げる際に骨頭を臼蓋の中心に押さえつけて、関節の適合性を失わないように働いています(これを骨頭の求心化作用と言います)。また、三角筋の収縮力を挙上方向にもっていくための初動筋(promotor)としても重要であり、肩関節の基本的な機能維持に非常に重要な働きを持っています。この筋群を腱板筋群と言い、三角筋などの大きな、表面の筋肉に対してインナーマッスル(inner muscle)とも呼ばれます。肩関節を酷使するスポーツでは特にこの腱板筋群をバランスよく強化することが良好なコンディショニングにつながります。この腱板は年齢とともに弱くなり、はっきりした原因がなくても腱板が切れて穴があく事があります(これを変性断裂と言います)。こうなると腕がスムーズに上がらなかったり、痛みが出たりします。機能障害が強いようであれば手術が必要です。

 また、腕は約180度まで上げられますが、実際に肩甲上腕関節で上げられる角度は約120度です。あとは肩甲骨であげるのです。この肩甲骨と胸郭との接続面を肩甲胸郭関節と言います。肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の動きは密接に関連しており、腕を上げる動作の約2/3を肩甲上腕関節で、約1/3を肩甲胸郭関節で行っていると言われています。すなわち、腕を90度あげたときには、上腕骨は肩甲骨に対して60度しか上がっておらず、残りの30度は肩甲骨そのものが傾いて、見かけ上、90度上がっているように見えます。この2:1の割合が肩の挙上運動で保たれている事が、肩のスムーズな動きに重要であるとされています。これを肩甲上腕リズムといいます。何らかの原因でこれが崩れると腕が上がりにくくなったり力が入りにくくなったりします。

 このように肩関節は複合的な動きを有しており、肩甲上腕関節、肩峰下滑液包、肩甲胸郭関節をまとめて広義の肩関節と言われています。これに対して狭義の肩関節とは肩甲上腕関節(上腕骨と肩甲骨が連結した関節)のことを指します。

 肩関節は身体の関節の中では脱臼する頻度が最も高い関節です。その理由は、上述のように、骨同士の接触面積が少なく、骨同士による動きの拘束が少ないからです。また、膝などのように強固な靭帯がないことも挙げられます。それが為に、肩関節は大きな動きを有しているのです。言い換えれば、安定性を犠牲にしても大きな可動域を得たのです。これは進化の過程で、サルが樹上生活をするため、ぶら下がり運動が必要になったためと言われています。

 安定性を犠牲にした最大のデメリットは不安定性、すなわち、関節脱臼です。そのため、肩関節脱臼は全関節脱臼の約半数近くを占めます。

 脱臼はほとんどが前方脱臼と言って、上腕骨が肩甲骨に対して前下方に外れます。まれに後方脱臼と言って、肩甲骨の後方に脱臼することがありますが、これは通常のレントゲン撮影では認識されにくいことがあり、注意が必要です。また、腋窩脱臼と言って「バンザイ」の状態で腕が下向きに外れることもあるようですが、非常にまれです。

一度前方脱臼を経験すると再脱臼しやすいことは一般的にも「クセになる」として認識されていますが、再脱臼の頻度はかなり高く、10歳代では90%以上と言われています。このように前方脱臼を繰り返す病態を「反復性肩関節脱臼(詳細は別項で解説)」と言います。

上述のように、肩関節の安定性は骨同士によるものではなく、強固な靭帯によるものでもありません。スポーツ活動などで非日常的な強い力が加わっていると、筋肉のバランス不良が生じ、微妙に安定感を失ってくることがあります。こうなると野球肩とか水泳肩とか、いわゆるスポーツ障害と呼ばれる状態の誘因となります。そのため、こういった状態には筋力強化(特に回旋筋群:インナーマッスル)が重要と言われるのです。ただ、脱臼するほどの強い不安定性に対しては筋力訓練単独では脱臼防止効果は出ないとされています。

脳梗塞などで片麻痺などのある患者さんではよく肩関節の下方亜脱臼が見られます。胸部のレントゲンなどで偶然発見されて驚かれることがありますが、これは肩関節の周囲の筋肉が麻痺するために肩関節が支えられなくなり、重力により、下方に亜脱臼してしまうのです。この現象は筋肉で支えている肩関節ならではの病態です。このような病態は外傷で急激に起こる脱臼とは違い、整復しても筋肉で支えられないために直後から同様の状態に戻ります。特別な治療法はなく、三角巾などでつるしておくしか方法はありません。ただ、幸いにも、痛みはほとんどないか、あっても鈍痛程度であることが多いため、特に処置は必要としないことが多いです。




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