反復性肩関節脱臼

肩がはずれやすい

肩関節が外れるとクセになる、とよく言われます。

これは本当の話で、最初に脱臼した年齢が若いほど再脱臼しやすいと言われており、20歳以下では約90%以上の人が再脱臼を経験するとも言われています。反対に、40歳以上では20%以下と言われています。このように、脱臼が整復された後に、数日・数ヶ月、あるいは数年の経過を経て後に軽度の力で再脱臼してしまう病態のことを反復性肩関節脱臼と言います。初回脱臼については肩関節脱臼の項目も参照してみてください。

バンカート
左:正常関節唇   右:関節唇の消失
 再脱臼する原因は現在もっともよく知られているものが、関節唇損傷と呼ばれるもので、バンカート病変(Bankart lesion)と呼ばれます。バンカートとは、1900年初頭にこの病変を治療することで反復性脱臼が治ると発表した人の名です。関節唇とは肩甲骨(受け皿側)の関節面周囲にある、軟骨で出来た土手のようなものです。これが脱臼時にはがれるので、脱臼する道が出来てしまい、脱臼を繰り返すと言われています。

 関節唇損傷以外によるものとしては、肩甲骨の受け皿(関節窩)の骨折、腱板(肩甲下筋腱)断裂、関節包断裂、前下関節上腕靭帯損傷(AIGHL損傷、HAGL病変)などがあります。

 反復性脱臼にも色々な程度があり、数年に1回外れるような人から、1ヵ月に数回脱臼する人もいます。日常生活に支障が出るような場合には治療対象となりますが、反復性肩関節脱臼の治療は現時点では手術しかありません。筋力訓練も言われていますが、明らかな効果が得られる事は少ないとされています。かの千代の富士もこれに悩まされていました。彼はトレーニングで脱臼を克服したとも言われていますが、相撲の取り方を変更する事で脱臼しにくい相撲を取るようになったとも言われています。手術方法は主な原因である関節唇損傷を修復する手術(バンカート修復術)が主流ですが、関節唇損傷がないような脱臼もありますので、それぞれに応じた治療法が選択される事になります。手術方法は論文にされているものだけでも100種類以上あると言われています。近年ではこの手術を関節鏡と言って、内視鏡の一種で見ながらこの病変部を修復する方法(鏡視下バンカート修復術)が広まりつつありますが、まだ、若干再脱臼率が高いようです。関節を直接見ながらする手術(直視下手術)の再脱臼率はおよそ数%程度の報告が多いです。鏡視下手術は施設により異なりますが、数%から十数%程度のようです。

 放置した場合どうなるかははっきりとはわかっておりませんが、10年単位での経過を見るとある程度は外れにくくなるとされています。 長期的には変形性関節症と言って、関節軟骨がすり減る病態がよく見られます。これは手術した場合と、そうでない場合の両者にみられるため、脱臼時の軟骨に対する損傷が誘因となっているのではないかと考えられています。しかし、症状を来すことはほとんどないとされ、心配する合併症ではありません。

関連項目:肩関節


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