湿布の話 その1

冷湿布と温湿布の違い

よく冷湿布がいいのか、温湿布がいいのか、と聞かれます。ここでは冷湿布と温湿布の違いと使い分けについて説明したいと思います。

湿布というのはそもそも、布に軟膏類を付けて患部に張り付けていたものです。そのため、「膏薬」という言い方もします。その際、冷却を目的として、冷水などに浸した布を貼り付けると「冷湿布」となっていたのです。その字のごとく、「冷たく湿らせた布」だったのです。それが医薬品の開発に伴って軟膏部分にハッカ成分を配合するようになり、それによって冷感を得、同時に粘着性を持たせてより長時間使用できるようになりました。要は、以前までは軟膏や基材自体の熱吸収作用によって患部を冷却していたものが、薬品によって冷感を得ると言うものに変わってきたのです。これがいわゆる第一世代の湿布と言われるものです。薬効としてはハッカ成分の他にサリチル酸などが配合されます。これに対して、ハッカ成分の変わりに唐辛子成分を入れたものが温湿布です。なぜ「温」なのかというと、唐辛子成分によって温感を得させるからです。これが第一世代の温湿布となります。

皮膚には温度刺激を感じる受容器があるのですが、それらはある温度帯によって刺激されます。すなわち、低温だけに反応する受容器、高温だけに反応する受容器、などがあるのです。ハッカはこれら神経受容器の内、低温に反応する受容器を刺激します。その結果、実際には冷えて無くても皮膚が冷たいと「感じる」のです。また、唐辛子成分であるカプサイシンなどは高温に反応する受容器を刺激し、その結果、皮膚が暖かいと「感じる」のです。ですから、決して実際に冷えたり暖まったりするものではなく、「感じている」と言うことがお解りいただけると思います。ただ、カプサイシンには血管拡張効果がありますので、通常、皮膚温は血液温度よりも低いので、理論的には血液温度と等しいところまでは温度を上げることは可能です。

ところが、更に薬品が開発され、より皮膚からの吸収がよく、更に鎮痛効果も高い薬品が開発されてきました。インドメタシンやケトプロフェンなどがそれです。このころもハッカ成分が使われており、独特の臭いがするものが多いです。しかし、この臭いをいやがる人たちが増えるにつれ、ハッカ成分を少なくして鎮痛薬成分のみのタイプも出てきました。本来の薬効からは、ハッカ成分が無くても鎮痛効果はあるわけですから、効果としては同じなのです。しかし、湿布の臭いや貼り付けたときの刺激感がないと効いてないような気がする、と言う方もたくさんおられます。ですから、現在は臭いのするタイプと、臭いが控えめ、または無臭タイプの湿布も使用されています。このころまでは温湿布に配合されている鎮痛薬成分はほとんど無かったので、温湿布にはほとんど鎮痛効果はなかったのですが、1990年代後半から温湿布にも鎮痛剤が配合されるようになりました。そのため、現在では一応、冷湿布、温湿布供に鎮痛効果を持っています。これが第二世代の湿布と言われています。こうなってくると、もはや湿布による冷却・温熱(正確には冷感・温感)効果よりも、鎮痛薬による鎮痛効果の方が重要となってきます。

更に最近では、長時間作用型の薬剤が開発されたりしたこともあって、粘着力が強く、薄いタイプの湿布も出ています。これは先の定義からすれば湿布ではないので、プラスター剤と呼ばれています。

昔の湿布は「気休め」程度に使われてきた様なところがあるのですが、最近の湿布は結構鎮痛効果も優れたものがあります。


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