変形性関節症(3)治療方法治療の目的と方針 変形性関節症による軟骨損傷や構造上の変化は不可逆的な物ですので、これらを元の状態に戻す(若返り)事が治療の目的とはなりません。しかし、変形の程度などのレントゲン所見と症状には関連性がないことも多くあります。ですから、治療目的は症状緩和とそれによる機能障害の改善となります。具体的には、軟骨変性進行の抑制、関節症変化の進行抑制、痛みや可動域制限の改善、日常生活動作(ADL)の改善、生活の質(QOL)の改善、などとなります。これらを達成するために、以下に挙げるような種々の治療法を組み合わせて治療を行っていきます。また、関節症患者には疼痛などによる日常生活制限が元で、精神領域にも問題を生じていることが多く、これらに対しても、運動や日常生活の改善(疼痛を怖がらず、現在出来ることを増やす事が主体)で、精神的健康状態の改善も得られることが分かってきています。保存治療 基本的には保存療法です。最も重要な事柄は、日常生活の改善です。これには体重減少、痛みの生じる動作の回避(痛みをおしてまでの長距離歩行などをしない、エレベーターなどの利用)、膝深屈曲動作の回避(しゃがみ動作、正座を避ける)、動作時の補助具使用(手すりや杖の使用)、などがあります。 病医院で行う治療としては、薬物療法(内服、外用(湿布、塗り薬)、注射)、物理療法(温熱、電気、レーザー)、装具療法(局所の負担を減らしたり、安定性を増したりします。サポーターや足底板など)、運動療法などがあります。 運動療法は主に関節近傍の筋力をアップして、関節の安定性を増し、症状緩和と悪化予防につなげていくもので、イギリスの運動療法ガイドライン(Roddy E, et al: Rheumatology, 2005)でも推奨されています。膝では大腿四頭筋、股関節では中殿筋が効果的とされています。効果の発現は1ヵ月から3ヵ月程度とされます。また、関節運動により、軟骨の栄養が行き渡り、関節が硬くなるのも防ぐことが出来ます。また、循環器系への負担の問題がある物の、有酸素運動も痛みの改善に有効であることも確認されています。 薬物療法に関しては、前述のように、関節軟骨を増やす薬物はまだ開発されていません。軟骨の元になる細胞を培養して、局所に移植するという方法が研究されていますが、まだまだ実用には至っていません。 痛み止めによる治療では、単なる痛み止めだけでは長期的にかえって変形性変化の悪化が見られるという報告もあります。原因を放置して痛みだけを取ってしまうことはある意味危険なのです。関節内注射は主にヒアルロン酸とステロイドが使用されています(ヒアルロン酸は現在のところ、保険適応上、使用部位には制限があります)。ステロイドはその強力な抗炎症効果により症状緩和に役立ちますが、長期使用によって変形性変化の悪化が見られることが言われています。また、まれではありますが、ステロイド性関節症という重篤な関節障害や化膿性関節炎の合併などの危険があると言われていますので、長期使用は避けた方が無難でしょう。鎮痛剤単独投与とステロイド関節内注射は投薬などを行わない経過観察群よりも長期的には成績が悪いというような研究結果もあります。鎮痛剤投与と同じく、原因にアプローチせず、痛みだけを抑える事は余り良くないという事です。その点、ヒアルロン酸の関節内注射は化膿性関節炎の危険はあるものの、現時点ではもっとも治療効果の高い方法です。軟骨の再生は出来ませんが、潤滑と水分保持により、軟骨損傷の悪化を遅らせ、鎮痛効果を得るとされます。最近サメ軟骨や種々のヒアルロン酸を含んだサプリメントが発売され、関節症に有効と謳われていますが、現時点では多少の鎮痛効果はあるものの、ヒアルロン酸の内服による軟骨再生効果はないとされています。鎮痛効果についてはヒアルロン酸などの成分による軟骨機能の回復によるものなのか、その他一緒に含まれている物質(コンドロイチン硫酸やグルコサミンなど)による消炎鎮痛作用なのかはっきりとしていませんが、後者であろうというのが現時点での見解です。そのため、普通の鎮痛薬を飲んでいるのと変わりないのかも知れません(副作用が少ないのかも知れませんが)。膝にたまった水を抜いた方がよいのかどうかについては、こちらを参照してください。 手術療法 変形性関節症の手術治療として、もっとも一般的に行われているのは人工関節置換術でしょう。応用部位としては特に膝が多く、次が股関節です。他は足関節と肩関節、肘関節が少数ある程度で、他の部分については今のところ、成績が安定している人工関節はありません。人工関節置換術は骨を削り取ってしまい、そこに関節の代わりとなる金属などを設置するものですので、基本邸には最終手段と考えるべきです。人工関節の耐用年数については現在、もっとも安定した成績が得られている膝関節で平均的に20年程度かそれ以上と言われていますが、感染・出血などの合併症も考慮して適応する必要があります。他の治療法として、関節洗浄・デブリードマンがあります。近年関節鏡の進歩で関節内の傷んだ軟骨の掃除などを行う方法として用いられることがあります。除痛効果はある程度あるようですが、根本治療ではなく、長期成績も不明な点もありますので、適応には慎重になるべきでしょう。ただ、手軽さと言う点では入院期間も短く、手術手技も関節鏡さえ出来れば複雑ではありませんので、症例によっては有用な方法です。 人工関節が発展するまでは関節固定術という方法も用いられていました。関節が傷み、その関節が動くことで症状が出るので、関節を動かなくしてしまおうという、少々乱暴な発想ともとれる方法ですが、一旦骨癒合してしまえば、痛みはほぼ完全に取れますし、永久的に効果も持続します。手や指などでは現在でも有用な方法です。股関節や肩関節に行われることもあります。特に力仕事をする必要のある人には有効な方法です。脊椎分野では固定術が有効なことが多く、多用されています。 変形性関節症の場合、荷重部のみの関節軟骨が傷んでいることが多いため、骨の形を変えて荷重部位を変えたり、力学的負担部をすらしたりする方法があります。骨切り術と言います。膝では高位脛骨骨切り術という方法が多用されています。股関節では骨盤骨切り術や臼蓋形成術、大腿骨骨切り術などが選択されます。治療成績は概ね良好なのですが、少し痛みが残ったり、長期的に再発することもあり、若年者に対する、人工関節までの時間稼ぎ的手術と位置づけられることもあります。もちろん、この手術で人工関節が回避できたという例もたくさんあり、有用な方法です。 近年では軟骨移植術という方法が研究されています。限局性のものに対しては骨に出血させて線維軟骨再生を促す方法、骨軟骨移植術などがあり、これらは実際の治療現場で利用されている方法です。研究段階のものとしては軟骨細胞の移植術があります。早く実用化されることを望みます。 変形性関節症(1)関節症と関節軟骨へ 変形性関節症(2)原因、症状などへ |
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