腰痛と神経痛

(3)その他の原因



  1. 骨粗鬆症
  2. 化膿性脊椎炎
  3. 脊椎の腫瘍

  4. (以下は腰痛(1)を参照ください)
  5. 腰痛の原因
  6. ぎっくり腰
  7. 腰椎椎間板ヘルニア
  8. 椎間板症

  9. (以下は腰痛(2)を参照ください)
  10. 筋筋膜性腰痛症
  11. 変形性脊椎症
  12. 腰部脊柱管狭窄症
  13. 椎間関節症
  14. 腰椎分離症
  15. 腰椎すべり症




 




ここでは後方障害、前方障害と分類できないようなものを紹介します。


骨粗鬆症
かなり有名になった言葉ですが、多少の誤解があります。まず、骨粗鬆症は絶対的な数値で決めるものではありません。年齢とともに骨量は低下していきますので、高齢者の平均値(正常範囲)は当然、若年者の平均値を下回ります。現時点では、骨折の危険性が生じてくるのは成人の平均値の約80%以下になったときとされており、このあたりから治療対称とすべきかどうかがを他の症状とともに総合的に判断するようになっています。

骨粗鬆症による腰痛の典型は圧迫骨折です。急性であれば比較的強い腰痛を生じます。はっきりとした外傷なく発生することもあるのが特徴です。MRIを行えば潜在性の圧迫骨折があるのかどうかが判定できます。また、骨折がなくても腰痛を生じることがあるとされています。これは骨強度が弱いために、画像上捉えることができないような、小さな骨折(顕微鏡的骨折と言います)を生じているのではないかと考えられております。骨粗鬆症の治療を開始すると腰痛が改善することがあります。

また、すでに治癒したものでも、圧迫骨折の為に椎体に変形を来していると、後彎変形と言って後方凸の状態になります。高度になると、円背といって、背中が丸くなってしまいます。こうなると、傍脊柱筋の負担が強くなり、腰痛の原因となることがあります。お年寄りの背中が曲がっているのは姿勢が悪いのではなく、圧迫骨折が存在し、背骨が変形しているために起こっているものなのです。圧迫骨折が後方の神経を押さえると下肢の麻痺が生じることがあります。これは受傷後早期に起こるとは限らず、数ヶ月の経過を経てから発生することもあります(遅発性麻痺)。

骨粗鬆の予防としてよくカルシウムを取ることが強調されていますが、カルシウムを取るだけでは骨量は増えません。骨という組織は絶えず造り替えられています。不可にさらされない骨は幾らカルシウムをとっても強度は落ちていくのです。無重力空間に行った宇宙飛行士が地球に帰還すると高度の骨粗鬆症になっているという話は有名なことです。ですから、骨量改善には適度な運動が不可欠なのです。また、カルシウムを吸収するためにはビタミンDが必要です。このビタミンDもただ摂取するだけでは有効ではなく、活性型ビタミンDである必要があります。通常の食物中のビタミンDを活性化する最も簡単な方法は日光に当たることです。ですから、骨量維持にはカルシウム摂取とビタミンD摂取、そしてお日様の元での適度な運動が必要なのです。

近年、骨量が十分なのに骨折を来しやすい人がいることが判明してきています。これは骨量測定が骨折のしやすさを正確に反映していないと言うことです。最近では骨量に取って代わる、骨折のしやすさをより正確に反映した検査方法と言うものが研究されつつあります。現時点では骨量測定がもっとも実用的ではありますが、その数値に一喜一憂することなく、適度な運動と、バランスよい食事を心がけて心身共に健康な生活を心がけていく事が大切だと思います。



化膿性脊椎炎
何らかの原因で背骨や椎間板に細菌が感染し、化膿してしまった状態のことです。典型的には強い腰痛に発熱を伴います。初期にはレントゲンで異常像がつかめないときもありますが、時間が経過すると骨が溶けてきたりしてレントゲンで異常像が現れ始めます。一般的にはブドウ球菌と言って、皮膚などに常在する菌が原因ですが、結核によるものも後を絶ちません。結核によるものを特に脊椎カリエスと呼びます。結核の場合、高熱が出ることは少なく、微熱と腰痛が続く事があります。通常の腰痛と違うところは痛みが強く、安静時痛(じっとしていてもずきずき痛む)が特に強いことです。また、糖尿病など、感染しやすい全身状態の場合に起こりやすくなります。このような場合には精密検査を受けましょう。

治療は基本的には投薬(通常は抗生物質の点滴投与)となりますが、神経麻痺(足や手に力が入らなくなる)を伴う場合や薬が無効の場合、手術が選択されることもあります。



脊椎の腫瘍
脊椎に腫瘍が発生することは比較的まれですが、ヘルニアと思っていたら神経に出来た腫瘍が原因で神経痛を引き起こしていた、と言うこともまれにあります。また、類骨骨腫という良性腫瘍は脊椎に出来ることがあります。これも典型的には自発痛(じっとしていてもずきずき痛む)を伴います。

脊椎原発で悪性腫瘍が発生することはかなりまれです。悪性腫瘍がある場合は通常、ガンの転移です。健康診断でも特に異常を指摘されてなくても脊椎の転移でガンが見つかった、と言う例もあります。

こういった特殊な腰痛によくみられる特徴は、安静時痛や夜間痛(昼よりも夜に痛み)が強いと言うことです。通常の腰痛は寝たり背中を丸めることで多少改善し、体を動かした時や、動かしはじめに痛みます。じっとしていてもじーんと痛むことはありますが、ズキズキ痛んだり痛みのために目が覚めると言うほどのことはあまりありません。もちろん、このような腰痛があっても特別な原因のないのことのほうが多いのですが、このような腰痛がある場合には一度MRIなどの精密検査を受けておきましょう。



身体化障害による腰痛
腰痛、特に慢性腰痛には、上述のような器質的障害(解剖学的に破綻を来し、客観的に異常があると思われる状態)のない場合がよくあることが知られています。これには種々の社会的要因も関与しているとされていますが、身体化障害といって、ストレスなどの心的要因によって体調に不調を来すものです。もっとも典型的なものでは、症状が多彩で多岐にわたっており、腰痛や四肢の痛みの他、消化器症状なども伴います。また、しびれや麻痺といった症状を来すことが多いのですが、神経の分布に一致せず、症状と客観的所見の整合性に乏しいことが多いものです。いわゆる詐病との違いはこれらの症状が非意図的であることとされます。このような場合には心的障害の原因を認識することが大切ですが、セロトニン製剤や抗うつ薬などの安定剤が有効なことがあります。典型的な場合でなくても慢性腰痛にはこれらの薬剤が有効なことがよくあります。







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