かなり有名になった言葉ですが、多少の誤解があります。まず、骨粗鬆症は絶対的な数値で決めるものではありません。年齢とともに骨量は低下していきますので、高齢者の平均値(正常範囲)は当然、若年者の平均値を下回ります。現時点では、骨折の危険性が生じてくるのは成人の平均値の約80%以下になったときとされており、このあたりから治療対称とすべきかどうかがを他の症状とともに総合的に判断するようになっています。
骨粗鬆症による腰痛の典型は圧迫骨折です。急性であれば比較的強い腰痛を生じます。はっきりとした外傷なく発生することもあるのが特徴です。MRIを行えば潜在性の圧迫骨折があるのかどうかが判定できます。また、骨折がなくても腰痛を生じることがあるとされています。これは骨強度が弱いために、画像上捉えることができないような、小さな骨折(顕微鏡的骨折と言います)を生じているのではないかと考えられております。骨粗鬆症の治療を開始すると腰痛が改善することがあります。
また、すでに治癒したものでも、圧迫骨折の為に椎体に変形を来していると、後彎変形と言って後方凸の状態になります。高度になると、円背といって、背中が丸くなってしまいます。こうなると、傍脊柱筋の負担が強くなり、腰痛の原因となることがあります。お年寄りの背中が曲がっているのは姿勢が悪いのではなく、圧迫骨折が存在し、背骨が変形しているために起こっているものなのです。圧迫骨折が後方の神経を押さえると下肢の麻痺が生じることがあります。これは受傷後早期に起こるとは限らず、数ヶ月の経過を経てから発生することもあります(遅発性麻痺)。
骨粗鬆の予防としてよくカルシウムを取ることが強調されていますが、カルシウムを取るだけでは骨量は増えません。骨という組織は絶えず造り替えられています。不可にさらされない骨は幾らカルシウムをとっても強度は落ちていくのです。無重力空間に行った宇宙飛行士が地球に帰還すると高度の骨粗鬆症になっているという話は有名なことです。ですから、骨量改善には適度な運動が不可欠なのです。また、カルシウムを吸収するためにはビタミンDが必要です。このビタミンDもただ摂取するだけでは有効ではなく、活性型ビタミンDである必要があります。通常の食物中のビタミンDを活性化する最も簡単な方法は日光に当たることです。ですから、骨量維持にはカルシウム摂取とビタミンD摂取、そしてお日様の元での適度な運動が必要なのです。
近年、骨量が十分なのに骨折を来しやすい人がいることが判明してきています。これは骨量測定が骨折のしやすさを正確に反映していないと言うことです。最近では骨量に取って代わる、骨折のしやすさをより正確に反映した検査方法と言うものが研究されつつあります。現時点では骨量測定がもっとも実用的ではありますが、その数値に一喜一憂することなく、適度な運動と、バランスよい食事を心がけて心身共に健康な生活を心がけていく事が大切だと思います。