椎間板ヘルニアとは、椎骨の間にあるクッションの役割を果たす椎間板が飛び出した状態です。椎間板とは線維輪という硬い外枠と、その内側にあるゼリー状の髄核という部分から成り立っています。クッションの役割を担っているのはこの髄核であり、これは20歳を過ぎた時点から水分含有量が徐々に低下し、そのクッション性をなくしていきます(変性と言います)。それと同時に線維輪ももろくなり始め、ひび割れが入ったりしてきます。線維輪と椎骨は終板軟骨という軟骨を介してつながっており、椎骨・椎間板・椎骨という背骨の機能単位を形成します。髄核には神経は通っていないため、痛みを感じることはないとされますが、線維輪と終板には神経線維があり、損傷すると痛みを感じます。
重いものを持ったとき、くしゃみをしたとき、などには椎間板に強い圧力がかかります。この時に線維輪にひび割れが生じると激痛を生じることがあり、いわゆるぎっくり腰として出現することがあります。ひどい腰痛が数日で治まってから、次第に足がしびれ痛くなってくる、と言うのが椎間板ヘルニアの典型的な症状推移です。急激な腰痛発作の前に前兆のような腰痛があることがあります。
上述のように、椎間板は20歳を過ぎたときから変性が始まっています。すなわち、このころからクッションの役割は低下し始め、線維輪も弱まってくるため、椎間板は徐々に飛び出してきます。この椎間板の飛び出しは、腰痛のあるなしに関わらず、一定の割合で見られると言われています。すなわち、MRIなどで見つかる椎間板の飛び出しと腰痛・神経痛とは必ずしも関連性があるとは言えないと言われています。しかし、椎間板の状態によっては痛みの原因となっていることも事実です(このような状態を椎間板症と言います)。従って、この椎間板の飛び出しが病的意義を持っているかどうかは症状と画像所見との整合性によって判断されるものであり、MRIだけを見て「椎間板が飛び出しているから、椎間板ヘルニア」、と言うように診断するのは不適当とされます。
ヘルニアの好発部位は第4腰椎と第5腰椎の間か、第5腰椎と仙椎の間です。この部位でヘルニアが生じると、いわゆる坐骨神経痛を生じることがほとんどです。好発年齢は基本的に若年者であり、早ければ10歳代に見られることもあります。40代以降になると、突出した椎間板そのものによる症状と言うよりも椎体や椎間関節の変性による症状が主体となります(変形性脊椎症、椎間関節症)。MRI上は両者はよく似た画像所見や症状を示すため、よく混同されていますが、厳密には椎間板ヘルニアと区別されます。
治療は、以前は手術療法が主体でしたが、ここ10年ほどで考え方が変わりつつあり、手術をしない方向になってきています。その根拠とされるものとして、手術治療したものと手術せずに治療したものの10年後の症状を比較したところ、両者に大きな差はなかったというデータがあります。また、飛び出た椎間板はその飛び出し方が大きいほど、時間経過とともに小さくなっていくと言うデータも示されました。ヘルニアには自然治癒するものがある事が分かったのです。そのため、手術治療は「痛みが強く、社会的に早期改善を強く望む」場合や、「膀胱直腸障害や中等度以上の神経麻痺がある」場合などに限定されつつあります。手術も以前のように「骨を削って、椎間板を全部切除する」ものから、「骨をほとんど削らず、顕微鏡などを用いて飛び出た髄核のみを摘出する」と言った方法や「切らずにレーザーで髄核の体積を減らす」というようなものもあります。これらの方法には再発率や有効度など、一長一短があります。
手術をしない場合、椎間板ヘルニアの症状が消退するのにかかる期間は数週から数ヶ月程度と言われています。その間、補助的に薬物療法や物理療法(電気治療、牽引など)、装具療法(コルセット)、運動療法などを併用していきます。