関節に水がたまる

関節に溜まった水を抜くとクセになる??

「関節の水を抜くとクセになると聞いたので、抜きたくない」
これは日常診療でもよく患者さんが口にされることです。皆さんも聞いたことがあるでしょう。さて、真偽のほどはどうなのでしょうか。

まず、関節に水が溜まる、という状況は、「関節水症」または「関節水腫」と言います。関節内には正常でも潤滑油の役割として、少量の「関節液」と言う液体が存在しています。この関節液は関節の袋(関節包)の裏打ちをしている滑膜という組織から産生されます。

関節に何らかの異常があり、炎症を来すと、滑膜から関節液が過剰に産生されます。これが「水が溜まる」という状況です。また、水腫が強いと関節が腫れて痛みを起こしたり、動きが悪くなったりします。炎症が軽度であると、溜まっている水は黄色透明で、変形性関節症などに見られる水はほとんどがこういうタイプです。炎症が強いと白血球が多く混じるので黄白色に濁ります。このタイプは関節リウマチや偽痛風などで見られます。また、感染があると、膿性の関節液となり、これは放置すると関節軟骨を傷害します。ケガがあると関節内に血が溜まっていることがあります。これを関節血症といいます。このような状態は靭帯断裂や関節包断裂、関節内骨折などが考えられます。この血の中に、脂肪滴と言って、骨髄由来の脂肪が混じっていると、関節内骨折の可能性が高くなります。これは抜いた血を見ることで肉眼的に確認できます。
従って、関節の腫れがある場合、まずはその原因を突き止めるための手がかりとして、関節液の性状を見ることがあります。これによっておおよその診断がつきます。即ち、黄色透明の時は変性性関節症や軟骨損傷、黄白色の時は関節リウマチや痛風、偽痛風、膿性の時は化膿性関節炎、血ならば骨折や靭帯断裂、と言う風にです。ですから、特に最初の時には水を抜いて関節液の性状を確認しておいた方がよいことがあります。
また、関節液は潤滑油としての働きの他に、関節軟骨の栄養を供給しています。しかし、過剰に産生された関節液は、正常の関節液とは組成が異なり、適切な栄養を関節軟骨に供給出来なくなることがあります。ですから、放置すると関節軟骨の栄養状態が悪くなり、変性を助長してしまう怖れがあります。
また、水を抜くことで腫れが改善し、症状が取れることがあります。

以上のような理由から、溜まった水は抜いておいた方がよいことがあります。では、抜くと本当にクセになるのでしょうか? 上記のように、水が溜まるというのは何らかの原因があって水が溜まるのです。ですから、水を抜くという行為に関わらず、原因を除去すれば水は溜まらなくなりますし、逆に原因が取り除けなければ、水はまた溜まることになります。関節水腫が問題になるのは膝が多いのですが、その原因の多くは軟骨損傷による物です。軟骨損傷は完全に治癒することが少ないので、原因が取り除かれにくく、結果として水腫も難治性になることがあります。ですから、あたかもクセになるような感じになりますが、決して水を抜いたからまた溜まるのではなく、原因が残っているからまた溜まるのです。

おもしろい例えに、鼻水の例えがあります。風邪を引いたとき、鼻水が出ます。そうすると、鼻をかみます。鼻をかんでも、風邪が治るまでは、また鼻水が出てきます。また鼻水が出るのは、先に鼻をかんだからでしょうか?違いますね。鼻水がまた出てくるのは、風邪が治っていないからで、「鼻をかんだことで鼻水がクセになった」のではないと言うことがこの話ではよく理解出来ると思います。関節水腫もこれと同じなのです。

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