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前十字靭帯損傷

Anterior cruciate ligament (ACL) injury

膝の前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament : ACL)は主に脛骨の前方移動を制御していると考えられていますが、1980年代に回旋不安定症と言う、大腿骨軸に対する脛骨の回旋方向の不安定性が注目され、これが患者の主な関節不安定感と関連があることと、長期的な変形性関節症の原因になると言うことが分かってきました。また、診断能力の向上により、膝靭帯損傷の約半数は前十字靭帯損傷を合併しているとも言われています。
基本的には受傷早期の痛みと関節の腫脹が主症状ですが、数日以上痛みが遷延することは少ないです。痛みが数週間も続くようであれば半月損傷の合併や、骨挫傷の合併を考慮する必要があります。痛みが引いた頃から、典型的には関節の不安定感や歩行時・階段昇降時の膝くずれを自覚するようになります。
前十字靭帯は一旦断裂すると、自然につながることはほとんど無く、縫合しても効果のないことが確認されており、基本的には手術治療、それも単なる縫合ではなく、再建術と言って、何らかの組織を用いて靭帯を作り直す手術が必要とされます。ただ、成長途上の子どもについては、成長軟骨の問題があり、再建術をいつ行うかについては慎重に検討する必要があります。

手術方法については本法では主に自家組織(自分の体から移植する方法)による、骨付き膝蓋腱と膝の屈筋腱であるハムストリングを束ねて使う多重束ハムストリングを用いた方法の2通りが行われています。手術成績は比較的良好ですが、10年経過時点では約10%程度において満足とは言えない結果が出ているのも現実で、過去20年間にわたり、様々な改良がなされてきています。歴史的には関節外制動術にはじまり、オーバー・ザ・トップ法になり、アイソメトリックポイントでの再建が現在の主流ですが、最近ではこれも改良が加えられ、解剖学的2ルート再建と言う方法も行われつつあります。これら手術の具体的方法については、各種記述がありますので、ここでは記載せず、一般的に余り記載されてない保存療法と予防を中心に記載します。

前十字靭帯損傷は、ほとんどが外傷で起こります。頻度はアメリカの統計によると、大体毎年2000〜3000人に一人の割合で発症するとされています。 男女比では女性が多く、男性の数倍とされます。男性では接触による受傷が多いが、女性では非接触性(ひねった、着地失敗など)が多いのが特徴です。ピボット動作など、膝外反位で回旋力がかかると切れやすいとされます。典型的には非接触性では女性のバスケットボールが多いとされます。

断裂した前十字靭帯はそのままでは癒合せず、固定しても良好な靭帯の再構築は行われず、縫合しても癒合しないことが確認されています。しかし、近年、診断の向上とMRIと関節鏡の普及に伴い、一部の症例に靭帯の再構築が見られることが判ってきています。これは固定では得られがたく、適度に関節運動をコントロールした状態で得られると言うことも分かっています。このような再構築が見られるものは、滑膜の連続性のあるタイプや、部分断裂であり、こういった症例に対しては早期からの装具使用による保護的運動療法によって、ある程度修復されると言うような報告もされています。

前十字靭帯は手術で再建しても問題となるのは再断裂であります。特に発症形式に性差や種目特性があることから、前十字靭帯損傷がケガというアクシデントの要素だけではなく、体質的要因や動作そのものなどに要因があることが考えられます。そこで、前十字靭帯損傷の予防として、これらの危険因子を排除して行くことが望ましいとされます。

性差に関してはホルモンの関連などが言われており、エストロゲンとの関連性が指摘されていますが、細かい部分についてはよく分かっていません。また、骨の形状(大腿骨の前捻、膝の外反、脛骨の外旋など)も指摘されています。しかし、これらは改善することは非常に困難です。

他には動的因子として、筋力のアンバランスが指摘されています。大腿伸筋である大腿四頭筋の筋力が屈筋であるハムストリングを上回ると、脛骨の前方引き出し力が働き、受傷の一因となると言われています。これは特に女性に多いとされます。また、関節固有知覚機能不全による関節の防御機能不全も考えられております。あと、特に危険とされる動作として、ニーイン・トーアウトと言われる動作があります。バスケットのピボットやフットボールのタックル時によく生じますが、つま先が外をもいている状態で膝が内に入ってしまう動きです。特に女性バスケットボールではこの動作による受傷が多いとされ、リハビリではこのような動作を行わないような、基本動作からの訓練が重要とされています。また、この動作の獲得には上述のような関節固有感覚を鍛えることも重要ですし、そのためには膝の屈筋と伸筋のバランス改良と適切な筋出力が得られるような運動メニューを組む必要があります。



日本整形外科学会診療ガイドライン委員会 ACL損傷ガイドライン策定委員会/編 「前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン」2006
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