肩関節の痛み五十肩とその他の肩関節疾患五十肩・四十肩 腱板損傷 肩鎖関節症 石灰沈着性腱板炎 上腕二頭筋腱炎 変形性関節症 肩が痛いと言っても原因は色々とあります。肩関節は身体の深部にあるため、痛みの部位がはっきりしない事も多く、また、レントゲンでも異常が出ない事がほとんどです。そのため、正確な診断は結構難しく、五十肩と診断されていても詳細に観察すると実際には原因がある事もよくあります。ここではこれら肩関節が痛くなる疾患で遭遇しやすいものについてその区別や対処法について説明します。また、頸からの神経痛や内臓から肩の付近に痛みがくる場合もありますが、これについては「症状別:肩周辺の痛み」で説明してます。 これは「整形外科一般:五十肩」の項目でも述べていますが、正式な病名は肩関節周囲炎と言います。定義上は「明らかな原因がなく、疼痛と可動域制限を伴う状態」とされます。実際には原因がしっかりと調べられないまま五十肩として治療されているものもたくさんありますし、肩が痛いと言うだけで五十肩と言っている人もいますが、厳密にはこれは間違いです。状態だけで言えば、拘縮を伴った状態ですので肩の動きが制限されます。すなわち、肩が挙げにくいという症状が出ます。これは力を抜いても、極端には麻酔をかけても挙がらない状態です。痛みは腕の付け根の外側や後方に見られる事もあります。五十肩が疑われる場合にはまず、肩がしっかりと上がるか、背中に手が届くか、後頭部に手が届くか、を調べてみましょう。これらの動作が問題なくできていれば五十肩ではなく、他に原因があるかも知れません。夜間痛が強い場合がよくあります。 肩の深部にある回旋筋腱板(「整形外科:肩関節」、「整形外科:腱板損傷」の項目参照)という板状の腱性組織の損傷です。挙上動作に重要な役割をもっているので、損傷すると挙上時の痛みの原因となります。 鎖骨と肩甲骨のつなぎ目の関節軟骨が傷むものです。挙上時痛があり、五十肩と間違われる事もありますが、肩鎖関節部に圧痛があることと下垂位での内外旋では痛みが出にくい点で鑑別可能です。肩の打撲などで起こる肩鎖関節脱臼の遺残症状として出る事もあります。基本的には薬物療法や注射などで改善しますが、ガンコな場合には鎖骨遠位端切除術が行われる事があります。 腱板にピロリン酸カルシウムという石灰成分が沈着し、それが誘因となって急性炎症を起こします。石灰沈着性腱板炎は急性炎症を起こすと肩に激痛が生じ、ちょっとでも動かす事が出来ないほどの痛みとなりますので、他の疾患とは容易に鑑別可能です。急性期には消炎鎮痛薬の投与と関節内注射が有効です。シメチジンという胃潰瘍の薬が有効であるというデータもありますが、再現性に乏しいという意見もあります。石灰成分は自然吸収される事が多いのですが、残る事もあります。石灰が残っても炎症の元となるとは限らず、無症状の事もあります。石灰成分が原因で炎症が長引く場合には関節内洗浄や石灰成分の摘出が行われる事もあります。 上腕二頭筋は”力こぶ”を作る筋肉です。中枢側が2つの頭に別れているのでこのような名前が付いています。一つは短頭と言って肩甲骨の烏口突起という部分についています。もう一つは長頭と言って、肩の前面にある、上腕骨の結節間溝と言う骨の溝を通り、上腕骨頭に沿って約90度曲がって肩甲骨の関節窩上部につきます。こういった走行上の特性から、長頭は上腕骨とこすれやすく、炎症が起こりやすいのです。特にものをよく持つ仕事などにみられます。症状としては結節間溝の圧痛ですが、腱板炎と類似の症状を来す事も多くあります。挙上時や、特に外旋と言って、ボールをほるような動作で痛みが増強する事が多いです。腱板断裂に伴う事も多く、自然に断裂する事もあります。断裂しても肘の屈曲力には影響は少ないとされ、若年者を除いて修復手術をされる事は余りありません。断裂すると力こぶが下に下がり、肘近くに力こぶが出来るようになります。力こぶそのものは少し大きくなり、隆起が目立つので、この現象は「popeye sign(ポパイ徴候)」とも呼ばれます(右図)。 肩関節の変形性関節症は比較的珍しいもので、症状も強くない事がほとんどです。脱臼した事のある人には軽度の関節症変化が見られる事があります。腱板が広範囲に断裂すると骨頭の求心位が取れなくなり、関節がぐらつくために変形性関節症を来す事があります。変形性関節症に対しては人工関節が行われる事がありますが、膝や股関節のように症状が強くない事が多いので、必要とされる事は少ないようです。 |
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