膝の痛み

膝痛の場所
右膝を前から見たところ
1.オスグッド病  2.膝蓋腱炎
3.膝蓋骨周囲炎  4.分裂膝蓋骨
5.タナ障害  6.半月損傷、変形性関節症
7.外側半月損傷、円盤状半月  8.駕足炎
成長期から高齢まで見られる膝の痛み。膝は大腿骨の丸い関節面と脛骨の平らな関節面が組み合わさって出来ています。その結合には内外側の側副靭帯と前後の十字靭帯が重要な働きを持っており、関節面では半月板という板状の軟骨が安定性に重要な役割を担っています。また、お皿の骨(膝蓋骨)が膝の前面にあり、合計3つの骨が膝関節に関与することになります。これらの組織のどこが傷んでも、「膝の痛み」として症状が出現します。ここではそれらの特徴を、年齢別に見てみたいと思います。

小学生以下

この年齢でもっとも注意しなければならないことは、膝が痛いと訴えても、膝が悪いとは限らないと言うことです。これは成人でも時々みられる現象ですが、特に小児では膝以外が原因で膝の痛みを訴えることが多くあります。そのほとんどは股関節に原因があります。具体的疾患としては、単純性股関節炎ペルテス病などです。
もちろん膝そのものに原因があることもあります。よく見かけるのが、円盤状半月といわれる、半月板の形態異常です。半月損傷があると、大抵は伸展障害と言って、膝が完全に伸び切らなくなります。この症状が出現すればまず第一に半月損傷を疑うべきです。また、まれではありますが、小児のリウマチ、いわゆる若年性関節リウマチというものもあります。この場合、膝、特にお皿の上がぷくっと腫れます。痛みはそれ程強くないことが多く、ここのところ、足を引きずっているというような気付かれ方をすることがあります。以外と知られていませんが、好発年齢は幼少時であり、4歳以前に発症することが多いです。また、特に原因のない、心因性四肢痛と呼ばれるものもあります。成長痛とも言われます。この辺については小児整形外科「子供の跛行」を参考にしてください。高学年でスポーツ活動をしているなら、次の中高生の項目も参照してください。

中高生

この年齢層で最も多い膝痛の原因は各種スポーツ障害です。膝のどの部分が痛いかで大抵は診断がつきます。成長痛と諦めてはいけません。具体的には右図とスポーツによる膝障害を参照してください。
しかし、この年齢は非常に重要な疾患が隠れていることがあり、安易な判断は禁物です。それはこの年齢が骨肉腫の好発年齢であり、また、膝は骨肉腫の好発部位でもあると言うことです。骨肉腫は本邦では100万人に約1,2人というまれな疾患ですが、骨肉腫の半数以上は10歳代に発生し、約7割は膝関節周辺に発生するのです。ご存じの通り、恐ろしい病気ですので、必ずレントゲンでチェックしてもらいましょう。

成人

成人期以降では主に半月損傷や腱の炎症が主体となります。ほとんどはスポーツ障害で見られるものと同様ですので、スポーツによる膝障害での考え方が有用です。しかし、若年者と違うところは、変性と言って、年齢による軟骨の柔軟性の低下が基盤にあると言うことです。これがあると、誘因となるような外傷がなくても損傷しますし、知らず知らずのうちに損傷していると言うこともあります。そのため、若年者ほど手術適応が積極的に行われないこともあります。
時々見られるものとして、膝蓋骨不安定症というのがあります。これはお皿の骨(膝蓋骨)がゆるく、ひどい場合には脱臼したりするものです。膝蓋骨脱臼の多くはすぐに自然整復されます。お皿周りに痛みが強かったり、膝を伸ばした状態でお皿を外側に押しやると痛みや脱臼不安感が誘発されたりします。軽症の場合にはサポーターでなおしますが、重度の場合には手術をすることもあります。
成人の膝痛でよく見かけるものとして、特に若年女性の膝前方の痛みというのがあります。特に明らかな原因が見つからないことも多く、これを「Anterior Knee Pain Syndrome(膝前方痛症候群)」と呼びます。これはお皿(膝蓋骨)周りが漠然と傷むというもので、以前はタナ障害とかと混同されていましたが、タナ切除術がそれ程好成績を挙げられない例があることなどから、独立した概念として考えられるようになりました。原因がはっきりしないため、治療方針も定かではないのですが、筋力の低下や関節のゆるみ、「にらめっこ膝」とよばれるいわゆる「内股」の状態による膝周辺への負荷増大などが複合的に関与していると考えられています。筋肉トレーニングや姿勢の矯正で改善することもあります。

中高年

この年齢ではほとんどが変形性関節症によるものです。初期には先に述べたように、半月の変性が先行しますので、レントゲン変化は強くありませんが、膝の内側に痛みが出ます。多くの場合は立ち上がり動作や階段昇降など、膝を曲げて体重がかかったときに痛みが生じます。時に炎症が生じ、いわゆる「水が溜まる」状態になることがあります。これを関節水腫と言います。「水を抜くことクセになる」とか言われていますがそんなことはありません。このことの是非についてはこちらで説明しておりますのでよければご参照ください。
変形性関節症の多くは体重をかけなければそれ程痛いものではありません。じっとしていても痛いような場合には他の疾患を考慮する必要があります。時々あるのが、鵞足炎と言われるものです。膝の関節よりもやや下側に腫れと痛みがあるのでよく見れば診断できます。ほとんどは局所の注射で改善しますので、関節症よりも治りやすいです。また、水腫がひどく、痛みも強いという場合には、偽痛風とか、骨壊死が疑われます。偽痛風はピロリン酸カルシウムという石灰成分が軟骨に沈着し、それをもとに痛風と同じように炎症が生じるものです。関節の腫れと激烈な痛みが生じます。注射で水を抜いて、中を洗浄し、必要に応じてステロイドやヒアルロン酸を注射すれば数日で軽快します。これは膝の他、足関節や手関節にも見られます。
一方、骨壊死は初期のレントゲンでは判らないことがあり、MRIを必要とすることがあります。骨壊死の患者さんは偽痛風ほどではありませんが結構痛みが強く、数日でおさまることはなく、大抵は数ヶ月間から一年程度かかります。夜間に痛むこともあります。その後、変形性関節症と同じ症状になります。ヒアルロン酸の注射を行いますが無効なことも多いです。足底板を使用したり、重度の時には手術を行います。
水腫が頑固なときにには上記の骨壊死を考える必要があるのですが、同時に関節リウマチも考える必要があります。特に高齢者の関節リウマチは典型的ではなく、膝単独の関節炎で発症することもあり、リウマチ因子も陰性であることが多いので注意が必要です。
外傷が契機になっているときは、潜在性骨折といって、MRIでしか判らない骨折を来していることがあります。

スポーツ整形 目次へ

TOPページへ