腰椎分離症とは、脊椎の後方要素である椎弓の、椎弓狭部と言うところで骨の連続性が途絶えている状態です。この部分で骨の連続性がとぎれると、脊椎の上下の連続性を前方の椎間板だけにたよることになるので、椎間板を傷めやすくなったり、分離部に負担がかかり、痛みを引き起こしたりします。
スポーツに関わっていない人にも見られますが、スポーツ選手に頻度が高いことが分かっています(非スポーツ選手は約5%程度、スポーツ選手では約10から20%と言われています)。そのため、成因は先天的要素よりも後天的な要素の方が大きいのではないかと考えられており、疲労骨折の一種であるという考え方もあります。多くは思春期に発生していると考えられており、無症状に発生していることもあると考えられています。先天的な要素としては、分離症の多くの人に椎弓の癒合不全(潜在性二分脊椎)が見られるため、椎弓の形成不全が考えられています。ただ、「分離症の存在」=「腰痛の存在」ではありません。ですから、「分離症の存在」=「腰痛の原因」でもないことに注意が必要です。
サッカー選手に比較的多く見られますが、他のスポーツでも見られます。後屈(身体を後ろにそらす)動作で椎弓狭部に負担がかかることが知られており、この動作をよく行ったり、腰椎の前彎(前方凸カーブ)がきついと分離が発生しやすいと考えられています。通常、後屈で痛みが増強します。
レントゲンは側面像で分かることもありますが、斜めから撮影する「斜位撮影」で分離部がわかりやすくなります。椎弓は斜めからレントゲン撮影するとテリア犬のような形に写ります。分離があると、ちょうど首に当たるところにスジが入り、首輪のように見えることから、「teria neck sign(テリア犬の首輪徴候)」と呼ばれています。早期の症例はレントゲンでは分からないことが多いです。
分離症は、成人になって見つかることもありますが、成人で見つかった場合、手術的治療以外に癒合することはほとんどありません。分離部が完全に分離してしまっており、癒合能力がなくなってしまっているからです。しかし、上記にも示したように、分離症があっても腰痛がない場合もありますので、成人で見つかった場合、症状がなければ治療する必要はありません。ただ、腰痛の原因となりうる部分が存在すると言う点で、分離のない人よりは腰痛を起こしやすいと考えられます。椎間板が支えきれなくなると、分離部が離れ、椎体にずれを生じるようになります。これが分離すべりと呼ばれる状態です。高度に滑ったり、腰の動きに従ってすれの程度も変わるような場合には頑固な腰痛や神経痛の原因となっていることも多く、手術的治療が選択されることもあります。
手術以外の治療法は一般的な腰痛とほとんど同じです。薬や湿布、コルセット、リハビリ、などです。悪化予防には筋力訓練が有効です。手術では分離部だけの骨癒合を目的とした分離部修復術が主ですが、すべりや不安定性を伴ってくると、椎体ごと骨癒合させてしまう、椎体間固定術が選択されることもあります。
問題は思春期に発見された、分離症の初期と思われる場合です。思春期であれば、骨形成能力が高いため癒合する可能性が残されています。実際に一般診療でも経験することです。この時期を逃すと、一生、分離部がくっつかない可能性が高くなります。そのため、この時期に発見された分離症は積極的に治療した方がよいとされています。癒合を目指した治療法はコルセットの装着とスポーツ制限です。一般的に、スポーツ制限中は通常の練習は出来ません。期間は約6ヵ月と長期にわたり、癒合しないこともあります。しかし、この時期を逃すと一生、腰痛の危険にさらされていかなければなりませんので、疾患とスポーツ活動の状況の両者を十分に考えて治療に当たりましょう。癒合が見込めない、あるいは癒合を目指さない場合は成人期の分離症と同じ治療になります。
近年、MRIなどの画像診断の発展によって、まだ完全にと言うわけではありませんが、はっきりと骨折が起こる前の段階での早期発見が可能となりつつあります。早期に発見できると活動制限も軽くでき、治療期間も短くて済みますし、骨癒合率も高くなります。また、MRIで骨折が起こりそうな状況であるということが分かれば、予防も可能となります。前述のように、本疾患の危険因子は腰椎の前彎が強いことです。前彎増強は色々な原因で見られますが、よくあるものとして、腰筋や四頭筋のタイトネス(硬さ)です。腰筋は腰椎そのものを前方に引きつけますし、四頭筋は骨盤を前方に傾けてしまいます。これらが腰椎の前彎を増強させる要因となりますので、予防としてはこれらの筋肉を十分にストレッチすることです。腰痛として軽く見るのではなく、このような疾患があることを念頭にして、早期発見と予防に努めましょう。