子供の肘の骨折形態は解剖学的形態によって以下のように分けられます。それに従って述べていきます。
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転位の大きいタイプ3の骨折 | 転位の少ないタイプ1の骨折 |
- 上腕骨顆上骨折
- 肘関節周辺骨折で最も多いもの(子供の肘骨折の50−80%)です。鉄棒やウンテイなどの遊具からの転落でよく起こります。骨片転位の程度によって3通りに分類されます。転位が強いと外見上でも肘の変形が分かるので、脱臼とよく間違われます。転位が強い場合は受傷後早期より強い痛みと顔面蒼白などの骨折随伴症状が出現します。このけがに遭遇した場合には、添え木としてあり合わせのものでもいいので、痛みの出来るだけ少ない姿勢で肩の下から手までを固定して、速やかに救急病院へ搬送してください(救急車でも構いません)。
約10%程度に神経麻痺を合併することがあり、多いものは橈骨神経麻痺と正中神経麻痺です。多くの場合は自然回復します。循環障害が見られることがあり、動脈損傷を来している場合もあるとされます。
ズレが少ないとレントゲンではわかりにくいこともあります。このような場合にはギプス固定で十分治癒しますが、転位が大きく、ズレを戻してやる必要があるような場合には手術的に針金(鋼線といいます)で固定してしまうこともあります。動脈損傷が疑われる場合には緊急手術の適応となります。子供の場合では骨膜が残存しているために骨癒合しやすい部分です。
重大な合併症として、阻血性拘縮(フォルクマン拘縮、Volkmann拘縮)と呼ばれる合併症があります。これは強い腫脹により前腕への血流が障害され、神経・筋が不可逆性の壊死を起こしてしまうものです。そのため、手指の強い機能障害が永続的に残る、重度の後遺症です。他には変形治癒(内反変形が多い)といって、曲がってくっついてしまうことがあります。これには、上腕骨顆上部は骨の接触面積が狭いため、不安定になりやすいということと、小児期の特徴であるリモデリングが起こりにくい場所であること、などが関与しています。変形が強い場合には小学生期でも手術によって変形を治す手術が必要になることがあります。
最近では麻酔が安全になってきたこともあり、早期に(緊急手術を勧める施設もある)手術が行われる傾向にあります。しかし、子供のけがは多くの場合、昼休みやお昼過ぎに起こります。この場合、通常は昼食を取っているので、麻酔がかけられない(誤嚥の危険性が高くなる)場合もあり、やむを得ず待機する場合もあります。
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転位の大きい外顆骨折。手術が必要なパターン | 転位の少ないタイプ。初期のレントゲンで見つけられないこともある。途中でズレが大きくなることがあり、手術に変更となることもある。 |
- 上腕骨外顆骨折
- この骨折は子供の肘関節骨折の10〜20%とされます。学童期までに多いのですが、この時期までは外顆の部分に成長軟骨が大きく存在しており(子供の肘骨折(総論)参照)、骨折線が明確に分からないことや、剥離骨折と間違われ、骨片の大きさが過小評価されることがあります。しかし、この骨折は関節内骨折であると同時に、成長軟骨を損傷する骨折ですので、厳密な治療が必要になります。
ズレが許容されるのは数ミリまでです。一般的には2ミリ程度まではギプスで治ることが多いとされています。また、受傷後早期にはズレが少なかったものが、1,2週間してからのレントゲンではズレが大きくなり、手術治療に切り替わる、ということもあります。2〜4ミリ以上の転位があると骨折が癒合しにくかったり(偽関節)、変形治癒(内反肘、外反肘)、成長障害などが見られることがあるので、手術的に治療する必要があります。これらの変形は手術でも回避できないこともあれば、成長とともに増悪してくるものもあります
- 上腕骨内上顆骨折
- この骨折も子供の肘関節骨折の10〜20%とされますが、外顆骨折に比べて好発年齢は若干高くなり、中学生頃にもよく見られます。
肘関節脱臼を起こした場合、成人では靭帯が断裂するのですが、小児期の場合、靭帯が切れる代わりにこの部分で骨折が起こることが多いので、子供の肘関節脱臼にはほとんど本骨折を伴っています。
基本的には転位が大きいと手術となるのですが、数ミリのズレがあっても長期的には何も支障がなかったという論文もあり、どの程度から手術を適応とするかには意見のばらつきがあります。転位の大きさに関わらず、関節内に骨片が嵌り込んでいるような場合には手術が必要です。脱臼に伴っている場合には脱臼整復後の骨片転位の程度で判断します。
スポーツによる繰り返す軽微な外傷でこの部分の骨端線が徐々に広がってしまう病態を内側型野球肘といいます。内側型野球肘があり、そこに外傷が加わって本骨折を引き起こすこともあります。
大きな合併症が残ることは少ない骨折ですが、後方に尺骨神経が通っているので、この神経を損傷する可能性があります。
- 上腕骨内顆骨折
- まれな骨折で、子供の肘関節骨折の数%とされます。好発年齢は滑車核が出現(総論の項目参照)する時期以降に見られますが、それ以前に発生するとレントゲンで確認できないため、診断が非常に困難になります。
外顆骨折と同様、関節内骨折であると同時に、成長軟骨を損傷する骨折ですので、厳密な治療が必要になります。
- 上腕骨遠位骨端線離開(通顆骨折)
- これもまれな骨折で、数%程度とされています。成長軟骨を横断するような形で骨折が起こるものです(骨端(成長線よりも端の部分)全体が骨片となる)。幼児期には骨端の核が小さいこともあり、骨片のほとんどが軟骨であるため、脱臼と間違われることがあります。転位が大きいと手術的に治療する必要があります。
- 橈骨頭骨折・橈骨頚部骨折
- 橈骨頭の骨折は小児期には少なく、ほとんどが頚部で骨折します。しかし、小児期の橈骨頭は軟骨が占める割合が大きいため、診断がしばしば困難となります。8,9歳までの骨折で、転位が30度程度の傾きならば成長とともにリモデリングされていきますので、特に整復操作は不要ですが、これを越すと麻酔下に整復しておく必要があります。
- 尺骨肘頭骨折
- 成長線で骨折する場合、通常は肘頭部の核が出現する年齢以降に生じます。その年齢以前では成長線よりも遠位部で骨折することが多く、若木骨折の形を取ることが多いです。この部分で骨折すると、以下に記載するモンテジア骨折という、橈骨頭の脱臼を伴うことがあり、注意が必要です。
成長線が閉鎖する途中では部分的に成長線がのこり、不全骨折と間違われることがあります。この区別方法として、骨折は通常、関節面側から起きるのに対し、成長線は関節面側から閉鎖し始めるため、線として残るのは関節面側の反対側となるので、この線がどちら側に残っているのかが判断材料となります。
モンテジア骨折を伴っておらず、転位も少なければ、通常はギプスのみで特に後遺障害なく治癒することが多いです。
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尺骨骨折に伴った橈骨頭脱臼 |
- 橈骨頭脱臼骨折(モンテジア骨折)
- この骨折の定義は「尺骨骨折に伴う橈骨頭脱臼」です。成人にも見られます。通常は尺骨の骨幹部(骨全長の中央付近)で骨折した場合に見られることが多く、肘のレントゲンも撮っておかないとこの脱臼が見つからないこともあり、注意が必要とされるものです。
小児の場合、肘頭骨折に伴って発生することがあります(上記肘頭骨折のレントゲン写真参照)。橈骨頭脱臼は整復しておく必要があります。通常はメインの骨折をある程度整復すると橈骨頭も整復されます。
合併症として、橈骨神経麻痺が生じることがあります。
橈骨頭脱臼がメインの骨折とともに安定して整復されると、後遺症状はほとんど残りませんが、脱臼が見つからずに経過してしまうと肘の可動域制限が生じたり、橈骨・尺骨の長さに変化が生じるために手関節に障害が生じることがあり、後日手術が必要となることがあります。