疲労骨折

知らないうちに骨が折れている


疲労骨折(stress fracture)という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?「金属疲労」はどうでしょうか?この言葉を聞いたことがなくても、多くの人が体験しています。クリップなどの針金を同じ場所で曲げて、伸ばして、ということを繰り返していると、ある時、プチッとちぎれますよね。あれが金属疲労です。本来簡単にちぎれるはずのない針金がいとも簡単にちぎれるのです。これは同じ部分に負荷をかけ続けると、金属の連続性が断たれて、最終的には破断してしまう現象です。

骨は「整形外科 ー骨折の治癒ー」の項目でも述べたように、絶えず造り替えを行っています。金属疲労のようなことが起こる前に新しい骨を作って負荷のかかる部分を補強しているのです。従って、金属のようにある日突然ポキッと骨が折れるというようなことは通常の状態ではおこりません。

しかし、骨の再構築が行われない、または、その能力が低下しているような病的な状態では日常生活で疲労骨折が起こることもあり得ます。そして、健常な人においてはスポーツ活動で起こることもよくあります。

スポーツによる疲労骨折は使いすぎ症候群(over-use syndrome)と言う範疇に入ります。この症候群は色々な障害を含みますが、基本的に、負荷が自己の組織修復の能力を上回ってしまった状態のことです(スポーツ傷害の項目参照)
脛骨疾走型疲労骨折中手骨疲労骨折
左:脛骨疾走型(短距離)
右:第2中手骨疲労骨折(テニス)
矢印部に骨折の反応(仮骨形成)を認める
いずれも症状発現後、約1ヵ月半

トレーニングによって、骨にも微細な損傷が起こることがあります。通常であればこのような微細な損傷は修復され、骨も太くなっていくのですが、この修復を上回ったトレーニングをすると骨の修復が追いつかず、結果として骨折に至るのです。これが疲労骨折の発生機序です。他に疲労骨折を起こしやすくする要因としては、スポーツ障害全体に言えることですが、疲労しやすい(体力が低い)、筋力が弱い、筋力のアンバランス、柔軟性不足、グランドコンディションが悪い、フォームが悪い、アライメントが悪い、等が挙げられます。従って、疲労骨折を起こして一旦治癒しても同じ事を繰り返す怖れがあります。各個人の体力とトレーニング環境を見直すことが再発予防につながります。疲労骨折は放置してトレーニングを続けると完全骨折に至ることがあります。完全骨折になると治療期間が長引くばかりか、後遺障害が残ることがあります。単なる成長痛と考えてしまって放置することは危険です。また、無理をおして競技を続けていると、いつまでたっても症状が取れないために、満足なパフォーマンスが出来なくなります。このような場合は、しっかりと安静をとって、治癒させることが結局は早期復帰につながります。休むことも重要ですし、指導者は休ませる事の重要性を認識し、責任を持つべきでしょう。

力学的特性上疲労骨折が起こりやすい部位というのがあります。全疲労骨折中、中足骨(足の甲)は約35%(右図)、脛骨(スネや膝下)は約25%とされ、この両者で6割を占めることになります(他には肋骨と腓骨がそれぞれ約10%、大腿骨、尺骨、足関節内果部がそれぞれ約3%とされています)。また、スポーツ種目によっても起こりやすい疲労骨折というのがあります。これらを理解することが障害の早期発見につながるので重要ですので、以下に参考を挙げておきます。
また、疲労骨折の症状や診断方法などについては疲労骨折2で解説します。

痛い場所発生部名称好発種目
膝下内側脛骨骨幹端(疾走型疲労骨折)短距離走
スネ前方中央脛骨骨幹部(跳躍型疲労骨折)バスケット
バレーボール
スネ下内側脛骨骨幹端陸上競技、サッカー
シンスプリントと鑑別要)
内くるぶし足関節内果陸上競技、剣道
足背部
(足の甲)
第2、3中足骨(行軍骨折)長距離走
足背部外側第5中足骨近位骨幹端
(ジョーンズ骨折)
サッカー
有鈎骨野球
中手骨テニス
尺骨骨幹部剣道
第一肋骨ゴルフ、野球
上腕骨近位骨端線野球
リトルリーグショルダー
下位肋骨長距離走
腰部腰椎椎弓(腰椎分離症)サッカー
特に注意が必要な疲労骨折は赤字で示しました。
これらは適切な治療をしないと治りにくかったり、場合によっては
ジャンプ動作など、ちょっとしたことで完全骨折に至ってしまうことがあるからです。

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